2025年11月14日

ドットを知らない世代へ──リメイクで体験する“もう一つのFF”『ファイナルファンタジータクティクス- イヴァリースクロニクルズ』レビュー

小さなマスの上で繰り広げられるのは、血と裏切りの物語。  

ドットで描かれた兵士たちが、誰よりも人間らしく悩み、戦い、倒れていく──。  

『ファイナルファンタジータクティクス』は、ピクセルの温もりの中に、冷たい現実を刻みつけた作品です。

では、皆さんは「ファイナルファンタジー」と聞いて、どんな物語を思い浮かべるでしょうか。  

ヒーローとヒロインの王道ファンタジー? サイバーと魔法が交差する近未来的な世界?  

そんな印象を抱く方も多いと思います。  

しかし、『ファイナルファンタジータクティクス』は、そのどれとも異なる“もう一つのFF”。  

リメイクによって蘇ったこの作品は、ドットの温もりを残しながら、人間の欲望や不条理を描いた物語です。  

ドットを知らない世代にこそ、ぜひ体験してほしい一作となっています。  

今回ご紹介するのは、1997年に誕生したオリジナル版を現代に蘇らせた  

『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリースクロニクルズ』。  

遊びやすくリメイクされた本作は、“今”のプレイヤーにも手に取りやすい形で生まれ変わっています。  

この記事が、新たに踏み出すきっかけになれば嬉しいです。

ライター/ねりけし

目次
ゲームシステムから物語まで──FFT入門
王道ではない、FFTだけの物語体験
これから始める人におすすめしたい『FFT』リメイク
新規も往年のファンも楽しめるリメイク(メリアドール好きも満足)

ゲームシステムから物語まで──FFT入門


『ファイナルファンタジータクティクス』は、1997年に初めて発売されたシミュレーションRPGであり、
プレイヤーは戦乱のイヴァリースを舞台に、ユニットを指揮してマス目状の戦場を制していきます。

◆ 基本システム

バトルは「高さ」と「向き」が存在するフィールドで展開されます。
キャラクターの位置や行動順はスピード値に基づいて決まり、
攻撃を仕掛ける角度や高低差によって命中率・ダメージが大きく変化します。
そのため、ただ強い技を繰り返すのではなく、戦場全体を読み切り、
敵の行動を先読みして布陣することが勝利の鍵となります。

◆ ジョブシステムと育成の自由度

オリジナルキャラクターであってもジョブチェンジが可能

FFTを語る上で欠かせないのが、シリーズでも屈指の完成度を誇るジョブシステムです。
戦闘を重ねることで「ジョブポイント(JP)」を獲得し、それを消費してアビリティを習得。
一定条件を満たすと新しいジョブが解放され、ナイト・白魔導士・弓使いといった基本職から、
風水士や算術士といった少し特殊な職まで多彩に転職していくことができます。

最大の特徴は「アビリティの継承」です。
メインジョブのアクションアビリティに加え、他のジョブで習得したスキルを副次的にセットできるため、
例えば「ナイトに白魔法を使わせる」「忍者に算術を組み合わせる」といった自由なビルドが可能。
このシステムによって、同じキャラクターでも育成方針次第でまったく異なる役割を担えるのです。

◆ FFシリーズとの違い

人間同士の対立や裏切りなどが描かれる

ナンバリングのFFが「クリスタルと冒険の物語」を描いてきたのに対し、
FFTは「貴族と庶民の対立」「宗教と権力の争い」といった政治劇を中心に据えています。
召喚魔法やチョコボといったシリーズ要素は登場しますが、
それらは彩りに過ぎず、物語の主題は人間同士の対立や裏切り。
善悪二元論では割り切れない、複雑な人間関係がプレイヤーを引き込みます。

◆ 戦術性とやり込み要素

バトルは一戦ごとの緊張感が高く、ユニットが戦闘不能になるとキャラロストに陥るリスクも存在。
これにより「一手の重み」が非常に大きく、常に緊張感を持ったプレイが求められます。
一方で、やり込み派には隠し武器や隠しキャラクターなど様々なやりこみ要素が用意されており、物語を超えて長期間遊べる作りになっています。

やり込み要素の一つ、「源氏装備」

◆ 懐かしさと革新、二つのイヴァリース

『ファイナルファンタジータクティクス』のリメイク版『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリースクロニクルズ』では、
プレイスタイルに応じて 2つのモード が用意されています。

ひとつは、オリジナル版をできるだけ忠実に再現した「クラシック」。
当時のドット表現やゲームテンポを残し、原作に近い雰囲気で楽しむことができます。

もうひとつは、グラフィックスを進化させ、ユーザーインターフェースを全面的に刷新した「エンハンスド」。
複雑だったジョブ管理やアビリティ選択も直感的に扱えるようになり、
さらに数々の追加機能を盛り込み、ストーリーには大幅な加筆・調整が施されています。
加えて、イベントシーンはフルボイス化され、物語をより深く味わえるようになっています。

この「クラシック」と「エンハンスド」の二本立てによって、
往年のプレイヤーは懐かしさを、新規プレイヤーは快適さを──それぞれ自分に合った形で体験できるのが、リメイク版最大の魅力です。

王道ではない、FFTだけの物語体験


『ファイナルファンタジータクティクス』の舞台となるイヴァリースは、戦乱のただ中にあります。
王位継承問題によって国は二つの派閥に割れ、貴族同士の権力争いが激化。
そこに巨大な宗教組織の思惑が絡み、表の戦争の裏ではさらなる陰謀が進行しています。

◆ 主人公ラムザ

そんな世界で生きる主人公ラムザ・ベオルブは、由緒ある名門貴族の三男。
血筋ゆえに戦場へ立つ立場に置かれますが、彼が望むのは「人として正しいことを貫く」ことでした。
しかし、現実の戦場では「正義」と「信念」だけでは人は救えず
理想を選べば味方を失い、妥協を選べば信念を汚すという苦悩が常に付きまといます。
ただ、そんな風に悩みながらも少しずつ成長していく姿に、プレイヤーは心を打たれていくことでしょう。

◆ 親友のディリータ

物語を象徴する存在が、ラムザの親友ディリータです。後に歴史の”表舞台”で英雄とされる人物。
彼は庶民の出身で、幼い頃から身分の壁に苦しんできました。
ラムザが「信念」を軸に進もうとするのに対し、ディリータは「権力」を手に入れることで現実を変えようとする。
二人の選んだ道はやがて大きく分かれ、友情は互いの信念の狭間に引き裂かれていきます。

◆ 勧善懲悪ではない「灰色の物語

FFTの物語は、単純な「善と悪」の対立ではありません。
貴族も、宗教組織も、時に味方として、時に敵として登場します。
どの勢力にも理屈と正義があり、同時に犠牲と矛盾を抱えています。
プレイヤーも何が正しくて、誰が悪いのか?と思い悩むことでしょう。また当時プレイしていた時は学生だった方も多いはず。そんな人たちが社会で働くようになり”大人”になった時、物語の感じ方も変わってくるはずです。

現代のRPGでも「選択と葛藤」を描く作品は多いですが、FFTは1997年という当時から「灰色の物語」を提示していた稀有な存在。
派手な英雄譚ではなく、痛みを伴う決断の積み重ねが物語の軸になっているため、新規プレイヤーにとっては「昔のドット絵作品なのに、テーマは現代的」という意外性と新鮮さを感じられるでしょう。
決して古さを感じさせない、”現代に合ったストーリー”と言えます。

これから始める人におすすめしたい『FFT』リメイク


『ファイナルファンタジータクティクス』に触れたことのないプレイヤーは、特に若い方に多いのだと思います。1997年の発売当時を知らないゲーマーにとって、本作は「難しそう」という印象を抱きやすいかもしれません。
マス目、ジョブ、アビリティ……要素は複雑に見え、戦術RPGに慣れていない人にとってはハードルが高く見えるのではないでしょうか。

けれど本作『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリースクロニクルズ』に触れてみれば、その印象は変わります。
 マスを一歩動かすたびに戦況が変わり、どの行動を選ぶかによって大きく揺らぐ未来。
「正しい答え」が一つに決まっていないからこそ、考える過程そのものがゲームの楽しさになるのです。この遊び方は、現代の”自由度”の高い作品に通じるものがあるのではないでしょうか。
それはパズルを解く快感とも違い、戦場を俯瞰し、自分の戦術で物語を切り拓く感覚──。
この“考えることの楽しさ”こそがFFTの真髄であり、今の時代にも鮮烈に響く部分だと私は感じます……が工夫次第で、”圧倒的な力”で全て蹂躙できるところもまた、本作の懐の広さと言えるでしょう。

リメイクによって遊びやすさは格段に向上しました。
UIや操作性は現代の基準に合わせて最適化され、ジョブやアビリティ管理も直感的に扱えるように調整されています。
初めてシリーズに触れる人でも迷いにくく、純粋に物語と戦術を楽しめる環境が整っています。

そして新規の方に、触れてほしい一番の理由はストーリーです。
貴族の血に縛られる者、権力を渇望する者、理想を貫こうとする者……その誰もが完全な善でも悪でもなく、選択の裏には常に犠牲と痛みがある。
主人公はラムザ。だからこそ、プレイヤーはラムザの視点で物事を考えるはず。でも私がおすすめしたいのは、色んなキャラクターの視点で物語を俯瞰すること。
そこから、様々な”理由”が見えてきてもっと物語を楽しめるはずです。

この灰色の物語は、25年以上の時を経てもなお色褪せず、むしろ現代だからこそリアルに響くテーマ。
エンハンスドではフルボイスになり、物語に臨場感が生まれ、ほかの作品の追随を許さないストーリーの完成度となっています。

圧倒的に遊びやすくなった今、この重厚なストーリーに触れてほしいと心から思います。

新規も往年のファンも楽しめるリメイク(メリアドール好きも満足)

『ファイナルファンタジータクティクス – イヴァリースクロニクルズ』は、従来のナンバリング作品とは一線を画す、人間の欲望や信念を描いた重厚なストーリーを持つ稀有な”ファイナルファンタジー”。

クラシックとエンハンスド、2つのモードで楽しめる本作は、往年のファンはもちろん、初めて触れる方に特におすすめしたい作品です。

マス目の上で繰り広げられる戦いは、一手ごとに未来を揺らし、時に甘く、時に苦い物語を紡ぎます。(特に武器破壊とか……!)
それでも、重厚で心に残るストーリーの残滓に、あなたはプレイの手を止めることができなくなるはず。
『FFT』は、ファンタジーの名を冠しながらも、最も人間を描いた“もう一つのファイナルファンタジー”。
25年の時を経てなお色褪せないその魅力を、ぜひ今の時代に感じていただきたいと思います。

本記事は、主に新規プレイヤーの方向けに執筆しましたが、もちろん過去作をプレイしたファンたちにも圧倒的におすすめできる作品です。遊びやすくなったUIとフルボイスは作品の魅力を200%引き出しているといっても過言ではないでしょう。あの”源氏装備”を盗めるようなりましたし、メリアドールちゃんがかわいいです。とにかくかわいい。
では、彼女の育成に戻りますので記事はここまで。最後までお読みいただきありがとうございました!

本記事内で使用している画像は、スクウェア・エニックスが公式に公開しているプレスリリース素材、
または筆者が自らプレイした際にキャプチャしたものを使用しています。

© SQUARE ENIX

ライター/ねりけし
ピクセルアート(ドット絵)ゲームプレイ歴20年以上。
Vtuberの下で2年間、動画作成とプロモーションを学ぶ。
最近インディーゲームの魅力に気付いて沼にハマる。

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