RPGにおいて音楽は、しばしば「雰囲気を支える要素」として語られます。
しかし『ルミネックス カルテット』では、その立ち位置が大きく異なっています。
本作は、音楽がプレイ体験の中心に据えられた“アンサンブルRPG”です。
レトロRPGの文脈を踏まえながらも、音と物語が密接に結びついた構造が特徴となっています。
この作品は、どのような意図のもとで作られたのか。
開発者である宇城和孝氏に話を伺いました。
『ルミネックス カルテット』とは
『ルミネックス カルテット』は、
音楽を軸に据えたレトロ風の2Dロールプレイングゲームです。
舞台となるのは、人々が塔の中で暮らす世界「ベッテンカーナ」。
プレイヤーは、音楽を愛する少年パトと仲間たちの旅を追いながら、
塔から塔へと移動し、物語を進めていきます。

ゲームシステムは、90年代RPGを思わせるオーソドックスなコマンドバトル。
「戦う」「防御」「魔法」といったシンプルな選択の積み重ねで戦況が変わる設計になっており、
複雑さよりも“判断の気持ちよさ”に重きが置かれています。
また、本作はリニアな進行を採用しており、自由度よりも物語への没入を優先した構造になっています。
寄り道や探索に意識を割かれることなく、ひとつの流れとして物語を追い続けられるため、
小説を読むような感覚で世界に入り込めるのが特徴です。
その体験を支えているのが、本作における「音」の存在です。

実際の楽器演奏を取り入れたサウンドは、
単に場面を彩るだけでなく、プレイのテンポや感情の流れそのものを形作っています。
さらに、キャラクター自身が演奏者として物語に関わることで、
音楽とストーリーが切り離せない構造になっている点も印象的でした。
音楽が鳴ることで感情が動き、
そして、あえて音が消えることで、その余韻が強く残る。
『ルミネックス カルテット』は、
そうした“音によって体験を設計する”ことに重きを置いた、少し珍しいRPGです。
開発者プロフィール──音楽からゲームへ

ゲーム音楽作曲家:宇城和孝
本作を手がけた宇城和孝氏は、ゲーム音楽作曲家として活動し、
これまでに『文字化化』や『狂気より愛をこめて』といったインディー作品でサウンドを担当してきました。
本作『ルミネックス カルテット』では、開発から音楽制作までを一貫して手がけており、
音楽とゲーム体験を密接に結びつけた構造は、これまでの活動の延長線上にありながら、本作ならではの大きな特徴となっています。
音が導く体験の裏側──開発者に聞く『ルミネックス カルテット』
本作の制作背景や音楽へのこだわりについて、開発を手がけた宇城和孝氏に話を伺いました。
■ 作品のはじまり

『ルミネックス カルテット』はどのようなきっかけで生まれた作品なのでしょうか?
宇城氏:
子どもの頃からRPGが好きだったんですよね。
2020年にゲーム音楽作曲家にキャリアチェンジすることになって、真っ先にRPGの制作者にコンタクトしました。すぐにサウンドディレクター&コンポーザーの仕事が決まり、順風満帆に思えたのですが、2023年初頭にそのプロジェクトは消滅してしまいます。僕の手元には26曲の未使用楽曲だけが残りました。
その後もRPGの仕事を探し続けましたが、上手くいきませんでした。そんな最中、文字化化のヒットがありました。担当した主題歌がYouTubeで瞬く間に20万回再生を超え、世界各国からカバー動画が投稿される事態になりました。下積みの苦労から解放され、「成し遂げた」という実感がありました。
ただ、満たされてはいませんでした。RPGを担当できていなかったからです。ゲーム音楽作曲家の下村陽子氏が、カプコン在籍時に「RPGを担当したい」という理由でスクウェア(現スクウェア・エニックス)に移籍を決めます。そんな華麗なムーブはできませんが、なんとかしなければと思いました。
まず、WEB小説を執筆した経験を活かし、RPGのシナリオを書きました。「音楽と連動したゲーム体験」という企画をゲームプログラマーの方に持ち込むためです。つまり「シナリオとサウンドを担当するので、一緒にやりませんか?」という話です。結果はすべて断られ、26曲の未使用楽曲に加えて、シナリオも手元に残ることになりました。
このシナリオを破棄できないと思ったんですよね。そうすると、残された手はひとつしかありません。自分で作るしかない。PlayStationタイトルのRPGツクール3でゲーム制作をした経験があり、RPGツクールなら形にできるのではないかと考えました。OMORIのヒットも後押しになりましたね。
本作を作るうえで、「最初に形になった要素」は何でしたか?(楽曲・物語・システムなど)
宇城氏:
物語ということになると思います。
ただ、「音楽と連動したゲーム体験」というアプローチで書き始めているので、そういった意味ではシステムと言えるかもしれません。たとえば、フィールド画面でキャラクターが演奏することを前提に設計していますので。
あと、26曲の未使用楽曲の中から何曲かピックアップして使用していて、すでにいくつかの楽曲が存在していた状態でもあったわけで……すみません、散らかってしまいましたね(笑)。
僕の中では、いろんな要素が同時に、あるいは流動的に、ルミネックス カルテットというひとつの箱に向かっていったような気がしています。
■ 音楽とゲームの関係

制作は「音楽」と「ゲーム部分」、どちらから先に作っていく形だったのでしょうか?
宇城氏:
シナリオといくつかの楽曲がある状態から開発がスタートしたわけですが、基本的には、音楽先行でゲーム部分を作っていくことはありませんでした。
ゲーム音楽の作曲の醍醐味は、用意されたビジュアル・シチュエーションにどう融合させていくか、どう盛り上げるか、みたいなところだと思っています。なので、そこは仕事と同じやり方ですね。
とはいえ、実際には同時進行に近かったです。森を作って森のBGMを作る、洞窟を作って洞窟のBGMを作る、というフェーズを積み重ねていきました。
本作を制作するうえで影響を受けたゲームや音楽作品はありますか?
宇城氏:
レトロRPGの影響を色濃く受けています。
ベースになっているのは魔界塔士Sa・Gaと、スーパーファミコン以前のファイナルファンタジーシリーズです。塔という構造と、サイドビューバトルですね。
Skyrimの影響も大きいです。僕は、ハイ・ファンタジーの世界観は指輪物語ではなく、Skyrimから学びました。
あとは、主にバハムートラグーン、スーパーストリートファイターII、オクトパストラベラーIIを参考にしました。
スーパーストリートファイターIIだけ格闘ゲームで毛色が違うんですけど、これはシャルという女性格闘家のキャラクターがいて、ドッターさんに発注する際に「キャミィのような構えで」ってお願いしたんですよね。僕が一時期、キャミィを使っていたこともあって。
音楽については、オリジナリティを大切にしました。1曲だけ、遊び心が顔を出して浜渦正志氏の手癖やサウンドを真似たBGMを作ったんですけど、全体としては自分の音を目指しました。それでも「ファイナルファンタジーっぽい」と言われたことがあります。おそらく僕の血の中に流れているのでしょう。
■ 制作の裏側

開発の中で特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
宇城氏:
開発途中で、主人公・パトの声優さんが降板するという出来事がありました。
声優さんは一人ひとりお声がけしてキャスティングしていたのですが、スケジュールの都合もあり、このときはXでパト役を募集することにしました。
応募総数は36名。
想像以上の反響でした。
宅録声優さんの母数が多い、というのはもちろんあるのですが、実績のない自分のゲームにこれだけ多くの方が手を挙げてくださったことに、純粋に感動しました。
それまで手応えのようなものをまるで感じずに進めていたので、自信というか、少し胸を張れるようになりましたね。
そうして決まったロアさんは、素晴らしい仕事をしてくださいました。関係者の方々には恵まれたと思っています。
制作で苦労された点や、思った以上に大変だった部分はどこでしょうか?
宇城氏:
ルミネックス カルテットのボイスは、すべて宅録によって収録されています。収録環境がそれぞれ異なり、提出された音声データには音質のばらつきがあります。それらを均質化する必要があるのですが、その差が思った以上に大きく、膨大な作業時間を要しました。
声優さんを選ぶ際に、必ずしも音質を優先しなかったので、覚悟の上ではあったのですが、ゲーム部分の制作よりボイスのエディットのほうが時間がかかるとは思っていませんでした。
USBマイクを使用されている方とのお仕事は、これが最後になるかもしれません(笑)。
それくらいへとへとになりました。
■ こだわりと魅力

「ここはぜひ注目してほしい」というこだわりポイントを教えてください。
宇城氏:
マーケティング上、サウンド一点押しになっていますが、実は文章にも注目してほしいと思っています。会話や書物といった部分ですね。
まずキャラクターについてですが、口癖を強く意識しました。人物像を緻密に描写したかったので、ほんの小さな言い回しまでこだわっています。名前や立ち絵、ボイスがなくても誰なのかわかるような一貫性を持たせたつもりです。どこを切り取っても「この人はこういう喋り方するよね」みたいなものを形成するつもりで書きました。
次に書物ですが、ゲーム内で小説が読める二重構造を取り入れました。シンプルに、小説が書きたかったからです。それくらい文章を書くのが好きですし、自分の文章も好きなんですよね。音楽と同様、自分を表現できる感覚があって、個性を押し出せる部分だと思っています。
「いい台詞だな」とか「いい文章だな」って思っていただけたら最高ですね。
開発者ご自身が特に気に入っている楽曲やシーンがあれば教えてください。
宇城氏:
特に気に入っている楽曲は、戦闘曲 vol.2『True Connection』と、洞窟のBGM『By the Light of Luminous Stones』です。
『True Connection』は楽曲単体というより、シチュエーション込みで気に入っています。『By the Light of Luminous Stones』は、洞窟のBGM史上最も綺麗な楽曲だと思っています。
シーンでは、ヒロインのベルフィが早起きする場面と、パーティ4人でアンサンブルする場面ですね。どちらもテストプレイで無駄に何度も見返したシーンです。
■ これから遊ぶ人へ

これから本作を遊ぶ方、気になっている方へメッセージをお願いします。
宇城氏:
僕は絵が描けません。プログラミングもできません。凝ったことは、なにもできません。
シンプルなターン制バトルや、オープンワールドと対極のリニア式は、現代に受けるフォーマットではないと思います。
「サウンド重視だからこのゲームをやってみよう」と思うユーザーさんもおそらくいないでしょう。
では、おもしろくないゲームをわざわざ作ったのかというと、そうではありません。僕はそうは思っていません。
なぜなら、たしかにあの頃僕が胸を踊らせたものを、ひとつひとつ丁寧に詰め込んだからです。
MOTHERに影響を受けたUNDERTALE、クロノ・トリガーに影響を受けたSea of Starsからもわかるように、古き良きJRPGと現代テクノロジーの融合は、インディーゲームにおける人気ジャンルのひとつだと思います。その観点でいくと、「レトロRPGでフルボイス」って、今だからこそできる、新しいものといえると思うんですよね。
昔と今のケミストリーを感じて、楽しんでいただけたら幸いです。
あなたと共鳴できることを願っています。
今回のインタビューを通して、本作の背景にある考えや、音楽に込められた意図を、より深く感じることができました。
貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。
なお、実際のプレイ体験については、別途掲載しているプレイレポートでも詳しく紹介しています。
▶プレイレポートはこちら
カーテンコール

開発の裏側を聞くことで、プレイしていたときに湧いてきた、さまざまな感情の理由が、少しずつ見えてきたように感じました。
インディーゲームといえば、独創的なシステムや尖った作品が多い印象があります。
しかし本作は、そうした方向とは少し異なり、オーソドックスでシンプルなレトロRPGの形をとっています。
それでもなお、音楽、バトル、そしてシナリオのひとつひとつに、開発者の歩んできた時間や想いが確かに息づいており、まさに“インディーゲーム”であると感じさせてくれる作品でした。
音、ビジュアル、物語のすべてが美しく調和し、そこに“なつかしさ”が重なることで、
私は、ただその時間に身を委ねるような感覚を味わいました。
きっとこの作品は、静かに心に残り続ける一作になるはずです。
■ 作品情報
タイトル:ルミネックス カルテット
発売日:2026年4月23日
プラットフォーム:Steam(Windows / Mac)
ジャンル:フルボイス2DRPG
ボイス:日本語
価格:780円
表示言語:日本語、英語
対応デバイス:ゲームパッド、キーボード、マウス
©Kazutaka Ushiro ©Gotcha Gotcha Games Inc./YOJI OJIMA 2020 ©REFMAP

ライター/ねりけし
ピクセルアート(ドット絵)ゲームプレイ歴20年以上。
Vtuberの下で2年間、動画作成とプロモーションを学ぶ。
最近インディーゲームの魅力に気付いて沼にハマる。

